[0169]cosα法の原理

X線応力測定(残留応力測定)の原理を式1つだけでわかりやすく説明するものです。
X線残留応力測定センター info@x-rsmc.com  は、鋼とアルミを対象に安価かつ短納期の応力測定サービスをご提供しています。
  • インターネットの時代。原理の説明は、ネット上の記事にも数多くあります。でもだいたい同じ式で同じような図です。これでピンと来ない人はどうしたらいいのでしょうか?
  • ここでは、無謬性、厳密性、網羅性を捨てて、できるだけ式を使わずに直感的に説明しています。
  • 式を使わない等の理由で一部正確性にかける部分もあります。また、他の記事と説明が重複する部分は、説明を省いてあるものもありますので、教科書や特集とあわせてご覧ください。
以下にX線応力測定の概念図を示します。

応力格子面間隔分布変化
↓回折
回折ピーク分布変化応力の推定


格子面間隔分布変化

以下の六角形は結晶粒だとします。実際にはありませんが同じ大きさものものがあったとします。
無応力の場合は、A,B,Cの長さは同じです。

圧縮の応力が加わると力が加わった方Bが縮みます。A、CもBほどではありませんが縮みます。

引張の応力が加わると力が加わった方Bが伸びます。A、CもBほどではありませんが伸びます。

ABC長さは、応力の正負と大きさによって図のように変わることがわかっており、ABCの長さの分布により応力が推定できます。

  • 実際は結晶粒の大きさは一定でないので結晶格子面間隔をX線の回折で測定して応力を推定します。
  • 結晶格子面間隔の絶対値を精密に測定するのは極めて難しいためABC方向の変化量から応力を推定します。
  • X線の回折によりABC方向の格子面間隔変化量をX線プロファイルのピーク位置の変化に変換して応力を推定します。
  • 実際はポアソン比(横に引張ると縦に縮む現象)があるのでもっと複雑です。
以下詳細説明

当社は実際に測定する会社ですので具体的な数字が記入してあります。当社の主なターゲット マルテンサイトとフェライト鋼を対象に 211面をCr Kα線で測定する際の数字です。図が小さくて見えづらい場合は、クリックすると大きくなります。


格子面間隔dと向きψ、応力σの関係

マルテンサイトとフェライト鉄 211面
鉄BCCの原子間は、2.866Åですが、測定に使用するのは211面で間隔はd=1.17Å になります。残留応力により間隔は変化します。 参考2.87/1.17=√6 (6=22+1+1)です。
図1.鉄フェライト211面
図2.鉄フェライト211面の法線ベクトルと面間隔


結晶粒
  • 製品の鋼を顕微鏡で観察すると、同じ方向を向いた結晶が塊になっている結晶粒があります。大きさは、1μm以下から目に見えるくらいまでです。様々な方向を向いた結晶粒が集まって金属組織を作っています。
  • 結晶粒は、検索するとたくさん画像がでてきます。参考にしてください。
  • 結晶粒サイズが小さくて、法線ベクトルの方向がランダムな方が精度よく測定できます。45μmで誤差±20MPaとX線応力測定標準にあります。
  • 残留応力があると法線ベクトルと応力の大きさと角度により211面の間隔dが変化します。

  • 蛇足:結晶粒は、細かいほど鋼の機械的な性質が向上します。疲労特性も上がってきます。応力測定の際に粗大結晶粒が見つかった場合は、測定の要否と適正な材料であるかをまず判断してください。
    • 応力が低い場合は、応力測定の必要性がありますか? 
    • 応力が高い場合は、粗大結晶粒の発生する材料は、機械的な性質が低下しています。そのような材料を使用してもいいのですか? 鉄鋼会社は、粗大結晶粒が発生しない鋼を何十年も研究しつづけています。そのような鋼材を検討してください。

図3.結晶粒の模式図


残留応力がゼロの場合は、211面の隣接する面との間隔は、 d=1.17Å ですが、残留応力があると211面間隔dが変化します。

ψは、被測定試料面の法線被測定結晶 211面の法線のなす角です。
応力なしの場合は、ψによってdが変化しませんが。
圧縮または引張の応力があるとψによってdが変化します。
図4.応力とψによるdの変化

211面間隔dψの関係を下図に示します。ψ=0度では、図の水平方向に応力がかかってもdが変化しませんが、ψが大きくなるにつれてdの変化も大きくなります。緑が残留応力なし、オレンジが引張応力、青が圧縮応力の場合の面間隔の分布です。(ポアソン比は考慮していません)

図5. 211面間隔dの面角度ψと応力σの関係
つまり、211面間隔dψを調べれば応力が推定できるということです。211面間隔dは、法線方向に応力がかかると最も伸び縮みします。
ψ=0付近は、211面法線方向と応力の方向が直交なので211面間隔dは変化しません。
ψ=90度付近は、211面法線方向と応力の方向が平行なので211面間隔dは最も変化します。
ψ=45度付近は、cosα法では理論上最も精度がでます。
他社に測定を依頼される場合は、なぜ45度で精度が高くなるか質問してみてください。わかりやく説明できれば合格です。

実際には、残留応力が、200MPaでひずみが1/1000程度なので、グラフで書いても認識できません、そこでこのグラフではひずみが誇張してあります。解説 鉄のヤング率は206GPaなので1/1000のひずみで発生する応力が206MPaです。


211面間隔d, X線回折プロファイルの回折ピークの角度()の関係 ブラッグの式

この211面間隔d=1.17Å程度なので、dを直接測定するのは難しく、X線の回折現象を利用して回折ピークの角度2θを測定しdを計算します。

X線の波長は、 λ=2.29Å (Cr Kα線 固定です。)

ブラッグの式は
2dsinθ=nλ
X線回折ではn=1
2dsinθ=λ
ブラッグ角は、無応力時 θ=78.2度になります。通常の入射角度の補角になります。

図7.X線回折現象

入射X 線と回折X線の角度を測定すると2θが測定できるので2θの記述がよく出てきます。


図8.X線回折現象

結晶粒の模式図で示したように鋼の結晶粒は一般的にランダムな方向に向いています。
今は、試料面の法線方向を0°として、−12°,+12°,+13°,+47°の方向の結晶粒があったとします。


そこにX線を垂直(ψ=0度)に入射させると24度の所に回折環ができます。

24=180-2θ というわけです。応力がゼロの場合は、真円の回折環が2次元センサーに映ります。

図9.応力ゼロ、X線入射角度ゼロの回折環

ここで試料に外部から引張応力を加えると格子面間隔が広がります。

2dsinθ=λ

dが大きくなりλが一定なのでsinθは小さくなります。

回折環は、点線の位置に変化します。回折環が大きくなります。(点線)

しかしながら、応力ゼロの時の回折環の大きさ(絶対値)を小さな誤差で計算するのは難しく、応力を測定しても誤差が大きくなります。


図10.引張応力、X線入射角度ゼロの回折環

そこでX線の入射角度を35度程度にします。今度は、試料面法線から13度と47度の結晶粒で回折が起こります。
この2つは、格子面角度が違うため引張応力によるdの変化が違います。それで回折環が楕円になります。
この楕円から応力を計算する方法は、応力ゼロの時の回折環の大きさの精度がそれほどいらないので高精度な応力計算ができます。

図11.引張応力、X線入射角度35度の回折環




 測定の実際 cosα法

X線を傾けて照射すると傾けた方向の応力が測定されます。測定点はレーザーでマーキングされます。


図12 左:測定の様子 右:測定点拡大




図11の回折環は実際は以下のようになります。
この強度が一番高い頂点の角度からひずみを計算してプロットすると。残留応力がほとんどない場合(図左)圧縮の-1600MPa (図中) 引張の1060MPa( 図右)となり応力が計算できます。


図13 2次元センサー上 デバイ間のピーク位置からひずみを計算した図。
左:応力がほとんない状態。 中:圧縮応力 右:引張応力

図14は、応力が0になる黄色の円を加筆した図です。

図14 2次元センサー上 デバイ間のピーク位置からひずみを計算した図に応力ゼロの円を加筆したもの。
左:応力がほとんない状態。 中:圧縮応力 右:引張応力

以上の説明を1つの図にすると図15のようになります。ひずみ(2θピーク位置)の真円からのずれで応力が推定されます。

cosα法のまとめ

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