[0031]cosα法とsin2ψ法の応力値が違う場合

X線残留応力測定センター info@x-rsmc.com は、鋼とアルミを対象に安価かつ短納期の応力測定サービスをご提供しています。

過去にsin2ψ法で測定をされていて、当社のcosα法で測定を依頼されるお客様へ、2つの方法で応力値が異なる場合は、何が原因かを解説します。

cosα法とsin2ψ法で同じ測定値になる測定条件で測定したいお客様はご連絡ください。

sin2ψ法とcosα法の測定範囲の相違 sin2ψ法:赤点は、X線入射角度を変えて数点測定します。cosα法:青線は、単一入射で2次元センサー上の400点で応力を計算します。このグラフでの線の傾きが応力と関係します。

結論

測定誤差が大きい被測定材料の場合にcosα法とsin2ψ法は、応力値が相違します。 当社の場合は、ご依頼の数%くらいが相違します。

① cosα法とsin2ψ法は、両方とも被測定材料に3つの条件(①均質等方性であり、②平面応力のみ、③(X線が侵入する深さ内の)応力勾配なし)を仮定しています。材料が3つの条件を満たしている時には2つの方法で測定値はほぼ同じです。

② 応力の勾配、集合組織、3軸の応力がある場合つまり,3つの条件を満たしていない場合は、ψの範囲やX線の侵入深さの違い等により2つ方法により測定された値に差が出る場合があります。

③ 鋼は、多くの場合3つの条件を満たしていてcosα法が急速に普及しています。大手の鉄鋼会社も保有しています。ただし、冷間圧延材の一部、集合組織を制御した材料、ショットピーニング後の残留応力測定には注意が必要です。

解説

当社で測定した範囲の現象に基づいています。すべての場合に正しいことを保証しません。厳密性や無謬性を求めるかたは、教科書をお読みください。なお提示したデータは実際のデータを元に加工してある架空のデータです。

①cosα法とsin2ψ法は、両方とも被測定材料に3つの条件(①均質等方性であり、②平面応力のみ、③(X線が侵入する深さ内の)応力勾配なし)を仮定しています。材料が3つの条件を満たしている時には2つの方法で測定値はほぼ同じ。 通常応力勾配というと測定点での平面上の応力の変化の度合いをいいますが、X線応力測定の誤差を議論する際の応力勾配は、材料内にX線が侵入する範囲内の応力変化の度合いをいいます。

この結果についてインターネット上でも幾つかの論文で紹介されています。『cosα法』等で検索してみてください。なぜ2つの方法は、よく一致するかといいますと、以下の理由によるものと考えます。

特に鋼の場合は、3つの条件(①均質等方性であり、②平面応力のみ、③応力勾配なし)を満たしている場合が多いので、2つ方法の測定値はよく一致します。この数年でcosα法の機器が急速に普及しています。購入の際は以前の測定結果との比較を行うわけで、多くの場合には、過去の測定値との整合性のテストをパスしていると考えられます。

そうなると、どのような場合にcosα法とsin2ψ法の応力値に差ができるかが気になるところです。それは、3つの条件を満たさない場合、つまり、cosα法とsin2ψ法ともに測定誤差が発生する材料の場合は、sin2ψ法とcosα法では、誤差が必ずしも一致しません。つまり応力値の違いが発生します。具体的には次のような場合です。

② 応力の勾配、集合組織、3軸の応力がある場合つまり,3つの条件を満たしていない場合は、ψの範囲やX線の侵入深さの違い等により2つ方法により測定された値に差が出る場合があります。

このような場合は、以下の特徴があります。

測定例

わかりやすいようにcosα法の2次元センサー(当社所有機器)のデータで2θ-sin2ψ線図を書いて説明します。

A.標準サンプルの例(007) ①均質等方性であり、②平面応力のみ、③応力勾配なし

cosα法は、X線入射角度ψでψ±η(11.8度)の範囲の情報から応力を推定します。あれっと思った人は、X線応力測定の原理を参照してください。

実際に標準サンプル sin2ψ法で-160MPaを測定してみるとcosα法のどの入射角度でも同様の値(-156MPa前後)を示します。このように標準サンプルのような①均質等方性であり、②平面応力のみ、③応力勾配なしのサンプルは2つ方法とも同様な値が計測されます。この場合は、2θ-sin2ψ線図がほぼ直線になります。

B.応力勾配がある場合(008)

深さ方向の応力勾配がある場合

ショットピーニングサンプルで、表面は圧縮応力が大きく、内部に行くほど減衰します。したがってX線の侵入深さが深いほど、圧縮応力が小さく、逆に浅いほど圧縮応力が大きくなります。

ψが小さくX線の侵入深さが深いψ=25°が圧縮応力が小さくなります。-1000MPa

ψが大きくX線の侵入深さが浅いψ=45°が圧縮応力が大きくなります。-1350MPa

sin2ψ法 -1100MPa

この場合もcosα法とsin2ψ法ともにψの選び方で結果が相違します。X線の侵入深さが違うからです。

sin2ψ法の各角度の進入深さの平均とcosα法ψ0の進入深さのを同じにすると応力値も近い数字になります。

C.集合組織のある試料の場合(009) ①均質等方性でない場合 ψの範囲により差がでる場合。

cosα法は、当社のμX−360n sin2ψ法は、リガクのAutomateで測定したデータです。

2θ-sin2ψ線図は、2つの機器でも一致しています。つまり、捕捉している格子間隔の分布は2つの機器、方式ともに同等であります。

この集合組織のある試料では、2θ-sin2ψ線図が湾曲するためにcosα法とsin2ψ法ともに測定するψ範囲で応力値が大きく変わり、符号が反転します。

sin2ψ法で測定した場合はψ範囲により,応力値が正負反転する状態です.例えば

sin2ψ法 でψ0-50度で測定すると 170MPa

sin2ψ法で ψ0-45度で測定すると -100MPaとなります。

cosα法 でもψ範囲により,応力値が正負反転する状態です.

cosα法は、入射角度により

ψ0=26度で -780MPa 

ψ0=30度で 80MPa

ψ0=35度で 850MPaとなります。

実際には、cosα法とsin2ψ法のψを範囲を同一にしている人はいないので、2つの方式で捕捉している物理現象はほぼ同一ですが、測定値に差異がでます。

cosα法は、2次元センサーから入射角度±11.8度の範囲の約400点のデータをとるので2θ-sin2ψ線図が湾曲していることがわかります。sin2ψ法で特に少ない点で測定をしている場合は、気づかないことがありので注意が必要です。

その他

空間的な応力勾配が 大きな場合

溶接部や応力集中部近傍では、空間的に応力が大きく変化しています。応力勾配が100MPa/mmも珍しくありません。そのような場合は、cosα法とsin2ψ法のX線照射範囲の違いは応力の差と測定されます。例えばsin2ψ法で円筒のコリメーターで入射角を0度から45度まで変化させると、照射範囲は、0度では真円、45度では、楕円になります。cosα法は、入射角度による楕円となります。さらに現実的には2つの照射範囲の中心をぴったり合わせることも難しく位置ずれも2つの方式の差になって現れます。対策は、周りの数点を測定して応力分布を把握すると2つ方式に差がないことが判明します。

参考

なぜ鉄鋼会社は、集合組織をつくるのか。鋼の結晶自体には異方性があります。方向によりヤング率が違ったり、伸びが違ったり、磁化特性が違ったりします。集合組織を作り結晶の向きを磁化しやすい方向に揃えることにより、例えば電磁鋼板では、圧延方向に磁化特性が優れた製品をつくることができます。また、深絞り加工用に幅方向に縮みやすく、厚み方向に縮みにくい板を製造すると加工時にシワシワにならず、割れにくくなります。

お客様のサンプルの2θ-sin2ψ線図の直線性をチェックすることが可能ですのでご相談ください。その際にsin2ψ法の測定結果をお持ちいただければ上の図のような比較も可能です。

当社では測定前に必要に応じて2θ-sin2ψ線図の直線性をチェックしています。

応力をB,Cの例のようなcosα法とsin2ψ法の応力値が違う場合は解決策を御提示できる場合もありますので直接お問合せをお願いします。

mishima@x-rsmc.com

仮説 [集合組織][応力勾配][炭素鋼][アルミ][ステンレス]contradict[弾性等方性]